しばらく前から、いまかいまかと待ちわびていた季節がやってきた。梅雨入り前の青空の下、朝からすでに暑いくらいの南三陸町入谷。山の桑の木を訪ねると、黒々と熟した桑の実があった。このあたりでは桑の実を「くわご(桑子)」と呼ぶ。枝にいっぱい実をつけた桑の林に入ると、ついつい次から次へと手を伸ばしてしまう。時々口にも放り込みながら、袋いっぱいのくわごが穫れた。

桑の木にならぶくわごたち
桑の木に並ぶくわごたち

 

忘れられた桑の木たち

南三陸では、入谷を中心にそちらこちらに桑の木を見かける。これらはむかし「お蚕様」のために植えられたものだ。蚕は桑の葉を食べて絹糸を吐き出す。桑畑はかつて養蚕で栄えた時代があったことを物語る。
いま養蚕をする家もほとんどなくなり、手入れされる事もなく取り残された桑の木も多い。くわごの話をすれば「口のまわりを真っ黒にして食べたもんだ」と大抵の大人は答えるが、そういうのも昔の話になってしまったようだ。道に落ちて車に轢かれたくわごたちを見ると、美味しいのにもったいないと思ってしまう。そう、私は食いしん坊なのだ。それに、暮らす土地の季節の恵みに生かされたいとも思うのだ。
くわごを食べたいと思った人は、桑の木の持ち主に声を掛けてみるといい。運が悪くなければ、きっと穫らせてもらえるはずだ。そして、お年寄りからかつての養蚕の話など聞かせてもらうのもいいんじゃないかな。

くわごとロケットストーブ

桑の木にもマグワとかヤマグワとか品種が色々あり、大きいくわごや小さいくわご、甘いのや酸っぱいのなど様々だ。わたしはそれらをまぜこぜに穫る。収穫したくわごは、水で洗ってごみや虫を取り除く。甘いくわごは虫や鳥たちも好物だ。くわごを採る時には、毛虫やカミキリムシ、へっぴり(カメムシ)などに気をつけないといけない。(たまに足元を小鳥が飛び抜けていくけど、それは気をつけなくても大丈夫。)そして、それらの動物たちと山の恵みを分け合おう。
くわごは、生のまま食べてもよいし、ジャムやパイ、スコーンやマフィンにしても美味しい。我が家の調理用熱源は、ロケットストーブである。ペール缶を利用して手づくりしたコンパクトな調理用薪ストーブで、山でひろった杉枝などを焚いて料理する。燃費もよく、長時間煮込むようなジャムにはもってこいだと思う。南三陸町には杉山もたくさんあり、燃料には困らない。焼き菓子も手づくりの”窯”を使えばロケットストーブで焼くことができる。くわごをたくさん穫った日は、ロケットストーブも大忙し。

ロケットストーブでくわごジャムを作る

 

朝市でロケットストーブ

南三陸町志津川の「さんさん商店街」では、毎月第1、3日曜日に「さんさん朝市」を開催している。わたしもロケットストーブを持ち出して”ロケットストーブ・キッチン”なるお店を出店する。この豊かな南三陸の恵みをお裾分けできたらと思う。たまには朝市で朝ごはんでもいかがでしょう。ひょっとしたら、ロケットストーブで焼いたくわごのお菓子が並ぶかも。

ロケットストーブ・キッチン開店中
さんさん朝市で「ロケットストーブ・キッチン」開店中