去る3月24日、パタゴニア日本支社さんの全面的なご協力のもと、南三陸町入谷地区と志津川地区、歌津地区にまたがる山歩きイベントを開催しました。
その名も「南三陸火防線ウォーキングイベント」!

「火防線」と聞いてピンとくる人も今では少ないと思いますが、かつて林業が盛んだった頃には、日本の山々には村境の尾根線を中心に、山火事の延焼防止のための幅広い無樹林地が通路状に延々と設けられていて、それらは「火防線」「火防帯」あるいは「防火帯」などと呼ばれていました。放っておけば草木が繁って埋もれてしまうその帯状の土地は、地元の方々が刈り払いなどの整備を怠りなく続けていたからこそ維持されてきたのですが、長引く林業不振によって、その多くはヤブと化してしまいました。
そうした、かつての火防線跡を中心とした尾根道を、再び歩けるようにしようと、南三陸ネイチャーセンター友の会では「火防線トレイルプロジェクトとして、2015年2月から刈り払い等の作業を進めてきましたが、このたび入谷タラ葉沢の盆地をぐるりと囲む惣内山~坂の貝峠~神行堂山のルートがついに開通したので、そのお披露目を兼ねたイベントとして開催させていただきました。

以下、そのレポートをお伝えします。

当日は心地の良い春の快晴のもと、友の会スタッフを含め20を超える皆さんが「校舎の宿さんさん館」に集合しました。

町道~林道~既存の山道を歩いて、まずは惣内山を目指します。よく手入れされたスギ林のなかの急坂を進むと、蔵王権現の御神木の大ケヤキが見えてきました。

不思議な山姥伝説の残る御神木の前で小休止の後、さらに10分ほど急登を詰めると、海の見える惣内山の稜線上に出ました。ここからが「火防線トレイル」として刈り払った尾根道のスタートです。ここでさらに小休止!

その先は、アップダウンの少ない快適な稜線歩き。すっかりヤブと化していた3年前とは別物のような快適な山道を進むこと小一時間で中間地点の坂の貝峠に到着。パタゴニアさん心づくしのエイドをいただきました。

坂の貝峠で大休止の後、入谷盆地を囲む山々のなかでは最高峰の神行堂山へ。
比較的最近まで火防線が維持されてきたこのルート、旧町境なので尾根境そのままの急登が続きますが、ここを越えれば比較的平坦な歩きやすい尾根になるので皆がんばれ~!

幅の広い旧火防線の尾根道を歩くこと小一時間で神行堂山へ。
金華山をお祀りする石祠のある山頂からは、入谷の美しい盆地と、先ほどスタートした惣内山の肩越しに志津川湾が見えました。

その後、既存の山道(山頂の石祠への登拝路)を下って石の平経由でさんさん館に戻り、郷土料理の「はっと汁をご馳走になってから解散となりました。

岩手大、中央大、大正大、慶應義塾大、尚絅学院大などの学生&教員有志の皆さん、パタゴニア日本支社、内外出版社などの企業ボランティアの皆さん、なにわホネホネ団などのNPOの皆さん、そしてもちろん地元の皆さんのご支援ご協力を得て復旧させた尾根沿いの道、でもこれ、単に山歩きを楽しむためだけの道ではありません。実は、南三陸町の町の鳥である「イヌワシ」の生息環境を保全し再生する意味があります。

山の生態系の頂点に立つとされるイヌワシですが、拡げた翼の先から先までが2m前後にもなるイヌワシにとって、うっそうと繁った森林は決して暮らしやすい環境ではありません。大きな翼が飛行の邪魔になり、混み入った森林内では十分に餌を狩れないからです。適度にひらけた山の環境こそが、彼らには不可欠です。
かつての日本の山には、牛馬の餌や田畑の肥料(緑肥)、茅葺き屋根の材として利用するための草地が広がっていました。用材林や薪炭林としての林業も盛んで、山には常に十分な面積の非樹林地(草地や伐採跡地などのひらけた環境)が広がっていました。人が山を上手に利用することで生じるそうした環境が、イヌワシをはじめとする非森林性の多くの生物の生存を支えてきたのですが、人が山に手を入れなくなってしまった現在、イヌワシは絶滅の危機に瀕しています。

南三陸町のシンボルバードでもあるイヌワシの生息環境を保全し再生するために、国有林や公有林、民有林の林業者、関係自治体や自然保護団体等が共同しての「南三陸地域イヌワシ生息環境再生プロジェクト」がスタートしていますが、火防線の刈り払いは、林業者ではない一般の方でもボランティアベースで参加できる山の環境の再生作業として位置付けられています。特に今期は、「南三陸イヌワシ火防線プロジェクト」としてパタゴニア環境助成金を得ましたので、活動をより本格化させて行きます。木の葉の落ちる秋以降、一般の方もご参加いただけるイベントを予定しておりますので、よろしくお願い致します~!

 

参考:イベント参加募集チラシ(PDF)